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JESAコラム 第43回


省エネルギーの誤解 省エネは誰のためなのか

東日本大震災から5年、今年はようやく節電目標のない夏を無事に乗り越えることができた。

節電目標が不要になったのには幾つかの要因があるが、最大の要因は省エネ・節電対策が進んだことで電力の総需要そのものが減少し、供給力に余裕が出たことが上げられる。かつて年間1兆kWhを超えていた日本の電力会社の販売電力量は約10%程度減少し、さらに減少傾向を続けている。また、停電対策としての自家発電設備など、電力自給力が向上していることなどが考えられる。

省エネや節電は一体なぜ必要なのか。エネルギーを無駄遣いせず、エネルギーを効率的に使うことでエネルギーコストを下げるというのが需要サイドの目的と考えられるが、電力会社にとっては、供給量の減少が直接売上げの減少に繋がる節電は歓迎すべきことではないと思うのだが、現実的には、電力会社が率先して取り組んでいる。自社の商品である「電気」を「あまり使わないで下さい」というのはどこかおかしいと思うのだが、「お一人様1個限り」などの購入制限は、スーパーの特売商品では目にすることもあるが、「電気」以外に売るもののない電力会社が、「あまり買わないで下さい」というのには少し違和感があるのではないか。

その解は、電力需要は一定ではないということにある。電力需要は夏と冬に需要のピークがあり、それ以外の時期は極端に需要が減る。電力会社には供給義務があり、需要に応じて必要な電力を供給しなければならない。そのために電力会社は1年のピーク時の最大電力を上回る発電設備を常に準備しておく必要があり、1日では数分から数時間、年間では数日間程度の極めて短時間のピーク時しか稼働しない、まるで非常用自家発電設備のような稼働率の低い発電設備を保有していなければならない。つまり、ピーク需要を減らし通年の需要カーブを平準化できれば、少ない発電設備で効率よく発電できることになる。つまり、発電コストの大幅な削減につながり、販売電力が減ることよりも遙かに大きいコスト削減効果を得ることができるのである。

そう考えると節電キャンペーンの本質は、需要家のためというよりは、電力会社の運営に皆で協力しましょうというキャンペーンなのだと理解できる。

さて、こうした省エネキャンペーンもいつまで続くのだろうか。電力制度改革により、電力事業が分割自由化され、このあと平成32年の「電力システム改革」第3弾では、発送電分離が行われ、電力会社から送配電部門が経営的に切り離される。電力の供給義務は送配電会社が独立して担い、既存の電力会社も新規参入者と同様に送電(託送)料金を等しく負担する仕組みになる。電力会社は発電事業と販売事業を同時に行う形態に生まれ変わり、小売り事業者は、自らの発電所で発電するほか、卸電力市場で調達した電気や、直接発電事業者から電気を調達して販売するというスタイルになる。

こうした自由化後の競争市場では、ピーク電力の調整は、省エネではなく、ピーク電力は高価格になるという価格調整によることになると考えられている。例えば、高価格が期待できるピーク電力市場向けに、普段は使われることのない非常用自家発電設備を活用できる仕組みを創れば、低コストのピーク用電源電を短期間で確保することができ、ピーク電力を低コストで市場に提供することが可能になる。また、それは、非常用自家発電設備の保安面でもきわめて有効な対策となることが期待できる。
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2016/11/09