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JESAコラム 第83回


ワールド・グリーン・チャレンジ
ソーラーカー・ラリー

東京電機大学 枡川重男

燃料電池での参戦

今回は,学生たちと参戦したレースを紹介します。レースは秋田県八郎潟で毎年開催されます。 一面に広がる田んぼのなかに,S字カーブ,シケイン,二つの橋をくぐる,往復30kmのコースを3日間走ります。 レースのカテゴリーはソーラーカーと,省エネ技術を搭載したエコチャレンジの二つです。 工学院大学等はソーラーカーです。オーストラリアのレースに参戦しています。私たちは燃料電池を搭載して走るエコチャレンジです。

車はオールカーボンのボディーに,水素,燃料電池,バッテリー,ブラシレスモータを搭載しました。 車名は流線型のハイドリック・インパルス。燃料電池からバッテリーへの充電,回生ブレーキによるエネルギー回収など,水素を無駄にしないシステムです。

8月7日(レース前日):車検とフリー走行。方向指示器やミラーの確認。20秒以内の脱出テスト。坂道でのサイドブレーキテスト。ポール間の旋回性能等を確認します。そして,時速30kmでのブレーキテスト。スピードを上げてブレーキを踏んだ時,インパルスの後輪が突然パンク。後輪のタイヤは破れ,チェーンはちぎれ,ギヤーは欠けました。モータが一瞬でロックしました。回生ブレーキのセッティングミスです。

車検でリタイヤかと思いましたが諦めません。早朝のブレーキテストを大会本部と交渉。「OK」をもらいました。学生たちとネットで自転車専門店を検索,チーム責任者でもある藤田先生と秋田市内まで往復60kmを走り,チェーンを購入。西村先生と寺坂先生のアドバイスを受けて,学生たちの交換作業は18時に完了。丸1日を失いましたが,学生たちとマイクロバスに乗って,村の温泉に直行です。明日を考えると不安になりますが,学生たちは楽しそうです。

8月8日(レース初日):早朝のブレーキテストに合格。朝9時,無事スタートしたと思ったとき, 10km地点でチェーンが外れたとの連絡。オフィシャルカーで現場に急行。チェーンのたるみを修正してレースに復帰です。 八郎潟は猛暑。コックピットは40度近くになります。ドライバーの安全を考慮して,2周でピットイン。水分補給のペットボトルと共にドライバーの交代。ボンベの交換。タイヤの空気圧チェック。水素漏れのチェック。すべてが「OK」になるとヘルメットを叩いてピットアウト。笛を吹いて,ピットラインに車がいることを知らせます。レース初日,17時終了。車を整備すると同時に,ピット後方でキャンプの食事を済ませると温泉に直行です。満点の星空のもと,天野川を初めて見る学生たちとの反省会です。

8月9日(レース2日):8時スタート。30度を超える猛暑のなかを走ります。午後3時,大会本部から15km先の折り返し地点で雨とのアナウンスが流れました。「来たかと思いました」。八郎潟はこの時期,必ず激しい雨が降ります。1時間後,ピットはどしゃぶりです。ピットをブルーシートで囲いますが水浸です。雨水をかきだしたて,2日が終わりました。ともかく温泉に行こう。

8月10日(レース最終日):8時にスタートして第1回のピットインの時,トランスポンダがないのに気付きました。昨日の雨の時,右わき下を分離帯に接触したとのこと。トランスポンダはペットボトルのキャップと同じ大きさです。色は赤。歩いて探すしかありません。30度を超える炎天下,下大川さん寺坂先生がコースわきを歩きます。2km歩いたところで,トランスポンダを発見。ピットインしたインパルスに取り付けます。最終日は,残る水素で何週走れるかが勝負です。もし,ピットに戻れないと,ペナルティーが加算されます。ブレーキテストなど,多少のマイナス点はもらいましたが,16時にレースは無事終了しました。

16時30分,表彰式です。私たちの車は3日間で650kmを走りました。第2位の成績です。しかし,提出書類のミス。私が予想周回数を書き忘れました。結果,総合第6位です。学生たちに慰められました。18時,トラックにインパルスを積み,マイクロバスと共に会場を離れます。翌日,学生たちも無事帰宅。今年のレースは終了です。

辰巳菱機の近藤様には,インパルスを整備する作業場やマイクロバスを提供して頂きました。三洋金属工業の下大川様には,インパルスの輸送,学生たちの食事など,ピットを支えて頂きました。お二人の支援で大会に参戦することができました。心より感謝いたします。

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図1 ハイドリックインパルスの構成

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図2 集合写真


2018/9/7